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「○○PAYで給与の支払いOK?? 資金移動業者の口座への賃金支払(賃金のデジタル払い) 課題の整理を進める」

      2022/09/15

先日、厚生労働省から、令和4年9月13日開催の「第178回 労働政策審議会労働条件分科会」の資料が公表されました。

今回の議題には、「資金移動業者の口座への賃金支払」が含まれています。

資金移動業者の口座への賃金支払とは、いわゆる給与のデジタル払いのことになります。

給与のデジタル払いの前にまずは、労働基準法においての「賃金」ついて確認してみましょう。

賃金とは、使用者が労働者に対して、労働に対する報酬として支払う対価のことをいいます。労働基準法(以下、労基法)では「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう。」と定義されています(労基法第11条)。

 賃金の支払い方法について、労働基準法では「賃金支払いの5原則」というものがあります。

・通貨払いの原則

・全額払いの原則

・直接支払いの原則

・毎月払いの原則

・一定期日払いの原則

今回の給与デジタル払いについては、「通貨払いの原則」に関連しています。

賃金は通貨で支払わなければならず、実物給与は禁止されています。ですので、例えば、賃金相当分の金塊をあげるよ、というのはNGになります(今のご時世、金でもらった方がいいかもしれませんが笑)

 また、ここでいう「通貨」とは、日本で強制通用力を持つ貨幣及び日本銀行が発行する銀行券をいい(通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律2条3項)、外国通貨は含まれません。また、小切手も、裁判例では、「通貨」に該当しないとされています(東京地裁昭和39年4月28日判決)

 なお、現在では口座振込みで給与を支給することが多いと思います。これについては、労働基準法24条第1項但書において、厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払うことができるとされており、この規定を受けて、労働基準法施行規則は、労働者の同意を得た場合には、労働者の指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金または貯金への振込みを認めています(同規則7条の2第1項)。

逆をいえば、労働者の同意を得ていなければ銀行振込はできず、例えば、使用者が特定の銀行の口座を振込先に指定する(口座開設を強制する)ことはできないということになります。

 では、定期券等の現物支給は、どうでしょうか?これについては、労働協約に別段の定めがある場合については、通貨以外のもので支払うことができるとされており、したがって、労働協約を締結すれば、定期券等の現物支給が可能となります。

 以上のように、賃金は原則通貨で支払わないといけないところ、資金移動業者の口座への賃金支払を認めることで、より柔軟に賃金を支払うことができるようにするのが、今回の目的になります。

なお、分科会では次のような制度設計案の骨子が示されていますが、労働者保護に欠けることがないように、慎重に課題の整理が進められています。

 

<資金移動業者の口座へ賃金支払を行う場合の制度設計案(骨子)>

(1)使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について次の⑵の方法によることができるものとする。

※銀行口座への振込、一定の要件を満たす証券総合口座への払込は、引き続き可能。

(2)次の①~⑤の全ての要件を満たすものとして、厚生労働大臣が指定する資金移動業者の口座への資金移動

(指定の要件)

① 破産等により資金移動業者の債務の履行が困難となったときに、労働者に対して負担する債務を速やかに労働者に保証する仕組みを有していること。

② 労働者に対して負担する債務について、当該労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰すことができない理由により当該労働者に損失が生じたときに、当該損失を補償する仕組みを有していること。

③ 現金自動支払機(ATM)を利用すること等により口座への資金移動に係る額(1円単位)の受取ができ、かつ、少なくとも毎月1回は手数料を負担することなく受取ができること。また、口座への資金移動が1円単位でできること。

④ 賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況を適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること。

⑤ ①~④のほか、賃金の支払に関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること。

(3)厚生労働大臣の指定を受けようとする資金移動業者は、①~⑤の要件を満たすことを示す申請書を厚生労働大臣に提出しなければならない。厚生労働大臣は、指定を受けた資金移動業者(指定資金移動業者)が①~⑤の要件を満たさなくなった場合には、指定を取り消すことができる。

 

「給与のデジタル払いについて、政府は、令和5年4月にも解禁する方向で最終調整を進めている」といった報道もありますが、思惑どおりに事が進むのでしょうか?

今後の動向に注目です。

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