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脳・心疾患による労災認定判例①~横浜南労基署長事件~

      2024/07/29

 

社会保険労務士法人Aimパートナーズです! 

今回からは「脳・心臓疾患による労災認定」に関連する実際の判例をご紹介します!

 

前回記事を復習すると、以下が脳・心疾患に関する労災認定基準になります。

◆長期間の過重業務

→発症前おおむね6か月間の中で、著しい疲労の蓄積をもたらす日常業務に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務に就労したこと

◆短期間の過重業務

→発症前おおむね1週間において、業務量、業務内容、作業環境等を考慮し、同種労働者にとっても、特に過重な身体的、精神的負荷と認められる業務に就労したこと

◆異常な出来事

→発症直前から前日までのあいだにおいて、発生状態を時間的および場所的に明確にしうる異常なできごとに遭遇したこと

 

これらの基準をもって、実際の判例ではどのように判断されたのか見ていきましょう!

 

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【目次】

◆横浜南労基署長(T社横浜支店)運転手くも膜下出血事件(最高裁判決平成12年7月17日)概要

◆判旨

◆まとめ

 

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◆横浜南労基署長(T社横浜支店)運転手くも膜下出血事件(最高裁判決平成12年7月17日)概要

 

 Xは、T社横浜支店長付きの運転手として勤務していたところ、長期間の拘束、時間外労働時間が続き、特に昭和59年4月13、14日にかけての宿泊勤務によって体調を崩し、その後も長時間労働が続いたことから、同年5月11日、自動車を運転中にくも膜下出血を発症した。

 

 Xは、本件くも膜下出血は、過重な業務によるものであり、発症と業務との間には相当因果関係があるとして、Y(横浜南労働基準監督署)に対して休業補償給付の支給を請求したところ、業務起因性の要件を欠くとして不支給決定処分としたため、Xは、処分の取消しを求めて提訴した。

 

 第1審では、Xの発症は、長時間労働等による疲労の蓄積により脳動脈瘤が破裂したことによるものであるとして、本件処分を取り消し。

 

 第2審では、Xの疾病は加齢とともに自然増悪した脳動脈瘤が、たまたま運転中に発症したに過ぎないとして、Xの疾病の発症の業務起因性を否定し、Yが行った不支給処分を適法と認めた。

 

 Xがこれを不服として上告した。

 

◆判旨(最高裁)

 

〇Xの業務は、支店長の乗車する自動車の運転という業務の性質からして精神的緊張を伴うものであった上、支店長の都合に合わせて行われる不規則なものであり、その時間は早朝から深夜に及び拘束時間が極めて長く、待機時間の存在を考慮しても、その労働密度は決して低くはないというべきである。

 

〇Xは、くも膜下出血の発症に至るまで相当長期間にわたり右業務に従事してきたのであり、とりわけ同年12月以降は時間外労働時間が7時間を上回る非常に長いもので、走行距離も長く所定の休日が全部確保されていたとはいえ、勤務の継続がXに精神的・身体的にかなりの負担となり慢性的な疲労をもたらしたことは否定し難い。

 

〇Xはくも膜下出血の発症の基礎となり得る脳動脈瘤を有していた蓋然性が高い上、くも膜下出血の危険因子として挙げられている高血圧症が進行していた。

 

〇しかし当時は治療の必要のない程度のものであり、Xには健康に悪影響を及ぼすと認められる嗜好はなかった。

 

〇よって、一過性の血圧上昇があれば直ちに破裂を来す程度にまで増悪していたとみることは困難であるため、Xが発症前に従事した業務により過重な精神的・身体的負荷が自然の経過を超えて増悪させ、発症に至ったものとみるのが相当である。

 

〇したがって、相当因果関係の存在を肯定することができるため、Xの発症した本件くも膜下出血は労災であると認められる。

 

◆まとめ

 

いかがでしたでしょうか。

 

 この判決が出るまで、脳・心疾患による労災認定については、「発症前1週間以内に業務上明らかな過重負荷を受けたこと」のみが要件となっていましたが、この判決を受けて現在の3要件の基礎となる要件が通達されました。

 

 よって現在の認定基準からみると、従業員の健康管理のためには、1週間程度ではなく、半年程度にわたる継続的な労働時間の管理が重要であり、それらを通じて従業員に疲労が蓄積することのないように配慮することが必要となります。

 

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