自動車運転業務 時間外労働の上限規制の適用
平成31(令和元)年にスタートした時間外労働に関する上限規制は、自動車運転の業務などに限っては適用が5年間猶予されていましたが、時間外労働の上限規制について、自動車運転業務への適用が2年後の令和6年に迫っています。弊所も札幌、北海道、東京のお客様から多くお問合せをいただいております。
時間外労働の上限として、原則月45時間・年360時間とし、臨時的な特別の事情がなければこれを超えることは出来ません。
臨時的な特別の事情があって、労使が合意する場合でも、
・年720時間以内
・複数月平均80時間以内(休日労働含む)
・月100時間未満(休日労働含む)
を超えることは出来ません。また原則である月45時間を超えることができるのは、年間6回までとなります。
この上限規制について令和6年(2024年)4月から自動車運転業務にも上限規制を適用し、適用後は年間残業時間の上限が960時間となります。これが2024年問題と言われています。(将来的な一般原則の適用は引き続き検討されています)
自動車運転業務の長時間労働ありきの働かせ方から脱却を図るうえで、業務の効率化及びドライバーの年収水準をどのように維持するのか検討する必要があります。方法として検討されているのが、中継輸送などで生産性を高めつつ、月例給に占めるウエートの高い「変動給」に関して、一部を固定給に振り替えることも選択肢の1つとされています。
厚生労働省の毎月勤労統計調査(令和3年・確報)によれば、フルタイム労働者の1カ月当たりの総実労働時間数は、調査産業計の162.1時間に対して、運輸業・郵便業は176.2時間と1割近い開きがみられ、所定外労働時間数は、16大産業のうち最長の25.3時間で、平成28年の23.0時間と比べてむしろ増加している傾向です。
また、全日本トラック協会の「2020年度版トラック運送事業の賃金・労働時間等の実態」によれば、男性運転者の月例給に占める変動給の割合は44.1%(14.6万円)。その内訳は「歩合給(運行手当)=走行距離や輸送距離などに基づく手当」、「歩合給(その他)=精皆勤手当や無事故手当」、「時間外手当」の順に、37.5%(5.5万円)、8.9%(1.3万円)、43.3%(6.3万円)などとなっています。
ドライバーの年収水準を維持しつつ賃金制度を見直すにためには、業務のIT化や、配送ルートの見直し、生産性向上など様々な課題に向けて、会社として対策を練る必要があります。しかし、中小企業ではヒト・モノ・カネが常に不足しており、なかなか対応できないのが実情です。
その中で、特に効果を上げているのが、先に上げた「中継輸送」と呼ばれているものです。数十路線で取り組み、例えば「福岡・大阪便」では、福岡、大阪の拠点を出発したドライバーが中間地点である広島でトラックを交換することで、“日帰り運行”が可能となります。メリットは多く、
① 2日がかりで往復する従来の輸送体系よりも、労働時間が短く済む
② ①の結果として、1週当たりの休日数の増加が図れる
③ 交替運転(1人が運転し1人が休む)をする必要がなくなる
などが挙げられています。目下、厚生労働省の労働政策審議会で議論が紛糾している改善基準告示の拘束時間についても、緊急時を除き月240時間以内に収まっているようです。
①~③によってコストダウンを図り、固定給増加の原資を確保し、集配や運行に関連する「業務手当」などを基本給(固定給)へ組み替えたことで、固定給比率を増やすことも可能となります。
業務量の多寡に関係なく一定の賃金水準が保証され、なおかつ泊りがけの勤務がないという労働条件であれば、女性や高齢者にも魅力的な労働条件になるのではないでしょうか?
最近では、Twitterでバズっている「トラックめいめい」さんのような女性のドライバーもいますので、女性労働者も増えるかもしれませんね。今後の人員構成も働き盛りの男性中心から変化していく可能性もあります。
私も社会保険労務士として、今後の自動車運転業界の動向に注視していきたいと思います。