精神疾患による労災認定判例②~品川労基署長事件事件~
社会保険労務士法人Aimパートナーズです!
今回ご紹介するのは、認定要件②が認められず、国が勝訴となった裁判例です。
◆認定要件① 対象疾病に該当する精神障害を発病していること
◆認定要件② 発病前約6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること
◆認定要件③ 業務以外の心理的負荷及び個体側要因により発病したとは認められないこと
厚生労働省が発表している「業務による心理的負荷評価表」が、判旨の内容に踏襲されているため、表を確認しながら読んでみて下さい。
厚生労働省 / 「精神障害の労災認定」 / 「業務による心理的負荷評価表」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120215-01.pdf
それではいってみましょう!
【目次】
◆品川労基署長事件(東京地判令元・8・19)概要
◆判旨
◆まとめ
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◆品川労基署長事件(東京地判令元・8・19)概要
防音の装置等の設計および施工等を営むA社と平成24年4月付で雇用契約を締結し、防音ハウスや防音壁の見積り等の営業業務を担当していたXは、同25年10月18日以降、連続して休暇を取得するようになり、同26年7月30日付で休職期間満了を理由に自然退職扱いとなった。
Xは上司からサービス残業や独占禁止法に違反する行為を強要されたり、パワーハラスメントを受けたりしたこと等によって抑うつ状態・適応障害を発病し休業に至ったものであるとして、所轄の品川労働基準監督署長(以下Y)に対し、労災法の休業補償給付の請求をしたが、休業補償給付を支給しない旨の各処分(本件不支給処分)をし、さらに東京労災保険審査官においても本件各不支給処分に係る審査請求について棄却の決定をした。そのため、Xは、平成29年8月7日、本件各処分の取消しを求めて、本件訴えを提起した。
◆判旨
〇Xの疾病等が業務上のものというためには、当該疾病等と当該業務との間に相当因果関係が認められることが必要である。
Xが業務上置かれた具体的状況における心理的負荷が一般に精神障害を発病させるに足りる程度のものといえる場合には、業務と当該精神障害の発病との間の相当因果関係を認めるのが相当である。
〇本件疾病の発病前おおむね6か月の間におけるXの時間外労働時間数は、月19時間弱から25時間弱にとどまる。心理的負荷の強度は、精神障害認定基準にいう「弱」と評価するのが相当である。
〇Xは、「A社ら3社が…独占禁止法に違反するカルテルを行っていた。違法行為を強要されていた」と主張するが、カルテルの存在を認めることはできない。したがって、Xが「業務に関し、違法行為を強要された」と認めることはできない。(精神障害認定基準にいう「中」の心理的負荷を生じさせる出来事があったとするXの主張を採用することはできない。)
〇平成25年3月15日、Xは上司より、
「君の考えはどうなんだ?」
「君がどうしたいっていうのはないの?」等と同じ質問を繰り返すとともに、
「ふざけんなおまえ」
「あほ」と述べられるなど、時折、厳しい口調で指導していた事実は認められる。
〇しかしXが、単純な計算を誤ったり、上司の話をきちんと聞かずに要領を得ない回答を繰り返したりしたため、指導の口調が厳しくなる場面があったこと、Xが自分で計算できるようになるまで根気強く指導がされていたことが認められる。
〇なお、Xの頭を5、6回軽くはたくといった上司の言動に相当性を欠く部分があったことは否定できないものの、Xが平成24年4月に入社して間もない頃の出来事であり、それが平成25年9月頃の本件疾病の発病まで継続していたと認めることもできない。(発症から1年半前)
〇本件は「上司から、業務指導の範囲内である強い指導・叱責を受けた」又は「業務をめぐる方針等において、周囲からも客観的に認識されるような対立が上司との間に生じた」ものとして、「上司とのトラブルがあった」ということができ、Xの心理的負荷の強度は、精神障害認定基準にいう「中」と認めるのが相当である。なお、上司の言動に業務指導の範囲を逸脱する部分があったとしても、「部下に対する上司の言動が、業務指導の範囲を逸脱しており、その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ、かつ、これが執拗に行われた」等として、「ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」とまでいうことはできず、心理的負荷の強度が精神障害認定基準にいう「中」にとどまることに変わりはない。
〇したがって、本件疾病は、業務上の疾病には当たらず、本件各不支給処分は、いずれも適法である。
◆まとめ
いかがでしたでしょうか。
パワハラと精神疾患の因果関係については、指導の範囲内か、または、逸脱して違法かの判断は微妙であり、個別具体的な裁判上の証拠調べの結果に委ねられることになります。
今回の上司の言動は業務指導の範囲内とされ、上司が頭をはたいた行為は、発症から1年半も前だったこともポイントとなりました。
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