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続)Twitter社の日本での大量解雇

      2023/02/17

 

 前回のブログに続き、Twitter社の解雇の話です。

イーロン・マスク氏は、2022年11月21日に開催された全社会議で、人員削減の完了を宣言したそうですが、最終的に従業員は約7500人から約2700人まで減ったようです。約4800人の人員削減ですね。

 また、リモートワークを認めず、少なくとも週40時間のオフィス勤務を命じる等、1日当たり400万ドルという赤字体質を改善するための策も講じているようです。

 400万ドルというと、日本円で約5億4千万円(2022年12月1日のレート)です。赤字額もさすが、アメリカ有数の大企業という金額になっています。

 

 さて、前回のブログの続きになりますが、日本における整理解雇についてです。

 

 「整理解雇」とは、企業の経営の合理化によって生じる余剰人員を整理する方法として、使用者が労働者に対して行う労働契約解消の意思表示になります。普通解雇の一つではありますが、労働者に責めに帰すべき事由はないため、使用者側に厳しい制約が課されます。この有効性を判断するために講学上立てられた要件が「整理解雇の4要件」となります。

 以下、4要件となります。

① 人員削減の経営上の必要性があること

② 解雇回避努力義務を尽くしたこと

③ 被解雇者選定に合理性があること

④ 手続きが相当であること。

 

 この4要件論は、全てが認められなければならないとすることに特徴があります。つまり、AND条件であって、1つでも欠ければ当該解雇を無効とされます。このため、整理解雇の要件が満たされることは、きわめて厳しいものとなります。

 しかしながら、バブル崩壊を得て長期雇用システムが変容してきた1996年頃から、この4要件説をとらない考え方が下級審を中心に登場してきました。すなわち、4つをANDとはとらえず、1つが弱くても他で補強すれば全体として有効となる考え方です。

 

 要件ではなく、「要素」として、全体的・総合的にとらえる「総合考慮説」というものになります。総合考慮説では、解雇権濫用の判断は、個別具体的な事情を総合考慮して行うものなります。総合考慮説では、4要件以外にも、割増退職金の支払いや転職支援が整理解雇を有効とする方向に働きます。

 

 では、総合考慮説における、整理解雇の4要件について、裁判所が現在どのような考えをしているか、ご紹介いたします。

 

(1)人員削減の経営上の必要性

 人員を整理する経営上の必要性の程度に関しては、①企業の維持存続が危うい程度に差し迫っていること、②企業が客観的に高度の経営危機下にあること、③企業の合理的運営上やむを得ないこと、の3つの考え方があります。

 ①は倒産寸前を意味し、②は例えば経常収支が3期続けて赤字である場合を意味しています。しかし、実務的には、①や②ではいたずらに被解雇者を増やすだけという欠点があり、③が採用されます。裁判実務では、経営上の必要性については、経営の専門家である経営者の判断を尊重する傾向が強いです。

 

(2)解雇回避努力

 解雇回避努力とは、人員削減をする際にまずは解雇以外の手段によるべきという信義則上の解雇回避努力義務に基づく履行措置を言います。

 従来は解雇回避措置を強く求め、解雇はまさに最終手段でなければならないとする考え方もありました。しかし、今日では、個別事案に応じた解雇回避措置が求められるのであり、必ずしも最終手段である必要はないとされています。それでも、希望退職者の募集や配置転換、役員報酬のカット、管理職手当のカット、非正規社員の解雇・雇止めなどが求められます。

 もっとも、他の解雇回避措置があったことだけを理由として整理解雇を無効とする事例は少ないです。他に選択肢があったか否かの判断は、当該企業の経営者にも難しく、裁判所が簡単に認定できるものではないからです。解雇回避努力が足りないと労働者側が強く主張することもありますが、解雇回避努力を尽くしていない事案では、そもそも無効であることが明らかな事件も多いです。

 

(3)被解雇者選定の合理性

 整理解雇の対象として誰を選定するかは、企業の人事担当者として実に悩ましいところです。しかし、いざ裁判となったときには、この点が整理解雇の有効性判断の決定的な理由となることはほとんどありません。

 これは、裁判所から見たとき、労働者Aを整理解雇すべきであって、労働者Bを整理解雇すべきではない、などと判断できないからです。最終的な人選は、その企業でしか判断できません。労働者をよく知る事業部長や人事担当者でも悩むことを、裁判所が判断できるものではないからです。

 

(4)手続きの相当性

 上記(1)~(3)までと比較して、手続きの相当性は、裁判所がプロとして判断できる分野となります。労働事件ではありませんが、政党からの除名、宗教団体の役員の選任についても、手続的側面からの判断がなされた例があります。実体的当否はともかく、手続的当否の判断は裁判所の専門分野になります。

 手続きの違背を直接の理由として整理解雇を無効とした判断は少ないです。手続きの無効を規定する条文もなく、このような場合の判決では、解雇回避努力義務の懈怠(けたい)等を理由とすることが少なくないです。この意味では、手続きの相当性と解雇回避努力義務の履行とは、かなり重なり合うことになります。

 具体的な手続きとしては、整理解雇をせざるを得ない状況の説明、経営上の数字の開示、労働者側の事情聴取などが挙げられます。

 

以上、整理解雇の4要件、現在の裁判所における4要件の考え方をご紹介いたしました。

Twitter社の解雇については、弁護士も裁判を起こそうと動いている状況もありますので、今回の解雇については、これから判断されることになるでしょう。裁判が起きた場合は、裁判所がどのような判断をするのか、注視していきたいと思います。

 

整理解雇についてもっと詳しく話を聞きたいと考えている経営者、人事総務の担当者の方々がおりましたら、是非、札幌・東京の社会保険労務士法人Aimパートナーズまでご相談ください。

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